ホーム > 経済, 文化・芸能, 日本関係, 観光・イベント > 北海道で行なうローカル幹部社員研修旅行・モニターツアーリポート

北海道で行なうローカル幹部社員研修旅行・モニターツアーリポート

2013年11月14日 17:56 JST配信

日本政府がついにマレーシア人を対象に観光ビザ廃止に踏み切り、マレーシア人 の短期間の訪日がしやすくなった。これを受けてマレーシア人の訪日旅行先とし てトップ人気を誇る北海道運輸局がマレーシア人の幹部候補生のための研修旅 行の誘致に力を入れる方針を発表、今年9月には同局の「Visit Japan」プログラムによる北海道研修モニター旅行を催行した。

北海道を舞台に、9月に行われたマレーシア人幹部の研修モニター旅行は、参加者や参加者を派遣した企業から大きな反響があった。

モニター参加者はメーカーが4人、販社が1人、人材派遣が1人で、女性5人、男性1人の総勢6人。うちイスラム教徒であるマレー人が3人(男性1人、女性2人)というバラエティ溢れる顔触れとなった。いずれも日系企業で勤務しているということで、元々日本に対する理解や関心が高かったとはいうものの、北海道というマレーシアにない風土だったということもあって短い日程だったにも関わらず実際に見聞きする日本に予想以上の刺激を受けたようだった。

参加者には、できるだけ本番の研修旅行で予定されるものに近い形で見学・視察を行なってもらった。講師は、本紙連載「人生の知恵・仕事の知恵」でお馴染みの人材トレーニング講師、湯浅忠雄さん。ツアーに全線同行して、企業見学やバス移動の時間を使って研修を実施した。「問題意識をもって見学先を訪問し、自ら考える」方針を徹底させて参加者の「気づき」を引きだそうとする湯浅さんの研修方法は新鮮だったようだ。湯浅さんは「訪問先での各社責任者や担当者の方々との質疑応答を通して、日本人の仕事と生活、そしてその背後にある思想や哲学を伺い知ることができたようでした」と振り返った。

■旅行日程■

訪問先は「元気のある」企業や事業所の訪問を通じてチームワーク、モノ作りへのこだわりなど日本が誇る日本式経営・仕事のやり方に関する研修をメインに、江戸時代が体験できるテーマパークや有珠山や登別温泉などの雄大な自然といった日本、そして北海道らしさを満喫してもらうという趣向(※日程表を参照)。正味3日間という日程については参加者からは短かったとの感想もあった(非マレー女性のAさん)が、本人は「また個人的に来たい」と結んでおり、却って再訪日を望む気持ちが深まったようだ。

■ホスピタリティ■

参加メンバーにはイスラム教徒が3人含まれていたが、現地サイドの気配りが奏効して宗教的禁忌に絡む問題が起きなかっただけでなく、むしろ日本のホスピタリティの底力をアピールする場になったようだ。

千歳空港には日本の空港としては珍しいイスラム礼拝所が設置されており、これもアピール効果があったようだが、イスラム教徒参加者を感動させたのは、実はこの後の食事だった。

千歳空港到着直後の昼食は意表を突くラーメン店だったが、イスラム教徒には通常のとんこつ入りスープでなく、店側が豚の入っていない別のスープを用意して対応。ここまで期待していなかったのだろう、慮外の配慮に驚いたようだ。

「北海道のみなさんが、私たちのためにノンハラルの食事を用意してくれたり、我々イスラムの生活文化を気遣ってくれたり、その『気持ち』がとても嬉しかった」(イスラム女性のNさん)

翌日の有珠山での昼食は牛しゃぶセットだったが、ここでも店側が牛肉でも拒絶される可能性を考慮して刺し身こんにゃくを用意するという周到さが発揮された。もちろんホテルの朝食や訪問先で出されるものについても、同行添乗員らがアルコールや豚由来の食材が混入している可能性を指摘するなどしたのはいうまでもない。

「店員がフレンドリーで、『いらっしゃいませ』『ありがとうございました』と接客スタッフだけでなくすべてのスタッフが暖かく客を迎えるのに驚いた」(マレー人男性Fさん)

後に述べる今回の研修のポイントの一つであり、参加者が揃って感銘を受けたことの一つとして挙げていた日本の「ホスピタリティ」が、訪問先以外の「現場」で確認できたようだ。

■チームワーク■

訪問地の中でも、チーズケーキで有名な製菓メーカー「ルタオ」(小樽)の管理職朝礼は、参加者に最も強い印象を与えた。

全店舗の店長が毎朝本店に集まって行なうのだが、その日の当番の者が「経営理念手帳こづち」に書かれた120の社訓の中から好きなものを一つを選んで、実体験に即して決意表明をするという「こづち発表」が非常にユニーク。これを受けて他の店長(彼らは互いを同志と呼ぶ)が、思い思いに担当者の決意に対する感想を述べた上で、必ず「良い点」をみつけて褒める。

プラスのフィードバックを与えることがポイントだという。発言者は「同志」から盛大に拍手喝采される。この後、昨日の売上及び目標達成度、本日の目標の発表を行ない、連絡事項の伝達、本日の決意・・・などと続く。

ルタオによると、こうしたスタイルの朝礼を導入したきっかけは、かつて業績が大きく落ち込んで改革を迫られたこと。「これまで以上に理念や情報を共有していこう」ということが趣旨だったという。ただ上意下達式に「明日からこうすることに決まりました」では人は容易に動かない。幹部が店長全員に個別面談して説明し、趣旨を理解してもらった。その後はメンバーが変わって新たな人が入ってもスムーズにいったという。

参加者は全員日系企業で働いているのである程度は日本式に慣れているのだが、これには度肝を抜かれたようで、自社でもやってみたいという声も上がった。

「今まで見たことがあるものと全く違う。ビジネス向上に向けて各自が自由に発言し、いつも全員で協力しあっていた」(イスラム女性のLさん)

「批判せず、怒らず、互いを尊重していた」(非マレー女性のAさん)

「みな元気で、良い情報も悪い情報も包み隠さず共有していた」(非イスラム女性のSさん)

「これがまさしく報・連・相だ」(非イスラム女性のVさんやイスラム男性のFさん)

■プロフェッショナリズムと継承■

食品会社を数社を訪問し日本が誇る「モノ」づくりの現場を見学したが、ハード面だけでなく日本人の勤勉さや真面目さ、粘り強さ、モノづくりの伝統の継承は、日本企業で働いている参加者にとっても印象的だったようだ。

余市にあるニッカウヰスキー蒸留所では、モノづくりへのこだわりの姿勢、品質管理の徹底などについて感想が寄せられた。

「成功するまで諦めずに努力を続ける姿勢に感銘を受けた」(非マレー女性のVさん)

蒸留所訪問は、イスラム教徒の参加者の反応が気になったところであったが、見学を拒否する者はおらず、全員工場内に入り、好意的な意見が聞かれた。

「大変清潔で美しかった。よい工場だった」(イスラム男性のFさん)

かまぼこで知られる「かま栄」では、伝統の味・品質を維持しながら、若者にも受け入れられる商品開発にも力をいれているが、さらなる向上を目指したゆまぬ努力が印象を与えた。

「従来のかまぼこのイメージ改善をめざし、若者に受ける味をめざした」「カイゼンは、会社で生じる問題を減らすための最高の価値だ」(イスラム女性のNさん)

「彼らは若い世代に伝統を学ばせ継承することを奨励している」「職場では5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)が重要であることがよく分かった」(イスラム男性のFさん)

丁度、工場内の清掃を行なっているところだったため、「上下に関係なく、全員で掃除をしていることに感銘を覚えた」との声もあった。

製造現場に限らず日本人に特徴的な美点として、誇りや時間に対する姿勢を指摘する声もあった。

「日本の文化は個人の誇りと評判を重視する。良い評判を維持したければ、相手に最高の尊敬を払うことを学ぶ必要がある。時間通りに行動することは尊敬を示すことの早道であり、実際日本人は約束の時間より早く現れる」(非イスラム女性のSさん)

■北海道を感じる■

東京や大阪といった大都会ではなく、マレーシア人の人気旅行先である北海道を舞台に今回の研修を行なったことは特徴的な点といえる。

特に火山のないマレーシア人にとっては、有珠山周辺に人が住んでいることに驚きだったようで、最初の印象は「どうしてこのような危険な場所に住むのかと思った」といったものだったようだ。しかし度重なる噴火の被害から立ち直り、それを観光資源やカキ養殖場などに逆利用しているといった説明を受けたところ、「逆境から逃げないことの大切さを学んだ」(イスラム男性のFさん)といった声が上がった。

講師の湯浅忠雄さんによると、「定期的に噴火をくりかえす有珠山の麓で、どうしてこんな災害が多いところに住んでいるのか?」とある参加者が案内係の方に質問したところ、海の幸など災害から得られる恵みも多い、といった答えが返ってきた。厳しい自然環境もプラスに転換させるその発想に、質問した参加者も随分感銘を受けていたという。

湯浅さんは、「今回の研修旅行は、南国に育った参加者にとって気候的に対極的な土地であるからこそ得られた貴重な体験だったと思います。自然災害に見舞われる事も少なく、天然資源に恵まれ、食べ物にもさほど困ることもない。そうしたマレーシアの人々にとっては、北国の厳しい自然と向き合い、そしてたくましく生きる人々から学ぶ事は多かったと思います」と結んでいる。

「神内ファーム21」はあえて北海道という場所を選んで、マンゴなどのトロピカルフルーツ栽培や肉牛飼育を中心とした先進的な農業を行なっていることで知られているが、チャレンジしていく姿勢のほか「若者への指導も行なっている」(前出のFさん)点にも感銘を受けたようだ。

あいにく雪景色がみられる時期ではなかったが、それでもマレーシアに比べれば寒かったようで、「寒さに驚いた」という反応が多かった。桜の時期にまた行ってみたいとの声もあった。

北海道らしいカニの食べ放題といった食事全般についても大いに満足したという声がきかれた。登別温泉についても、大浴場に裸で入るというスタイルに驚きながらも好評だった。

■湯浅さんの指導■

盛りだくさんの日程の中、研修・視察をより実りのあるものにしたのは、ツアーに同行した本紙連載でお馴染みの人材トレーニング講師の湯浅忠雄さんの功績だった。湯浅さんは、研修講師として▽テーマを決める▽自ら考える▽職場で展開をする――の以下の3つのポイントを念頭において臨んだと語っている。

湯浅さんは、ホスピタリティーや顧客サービス、チームワークなど、各訪問先で学んでもらいたいトピックス(プロフェッショナリズム、チームワークなど)を予め伝え、「問題意識をもって各企業を訪問するように」というアドバイスを与えていた。

「そして期待通り、あるいは期待以上に各参加者は各訪問先で大変な刺激を受け、一社一社の訪問を経るたびにみんなの目の色が変わっていく姿を目の当たりにして、その効果の大きさに筆者でさえも驚いた次第です。(湯浅さん)

こうした湯浅さんの指導を受け、参加者は「湯浅さんが、各社訪問を終えるごとに、What did you find out ? とかDo you have anything to share ? と質問をしてくる。最初は面倒だと思った。しかし、そのうち無意識のうちに自発的に、この会社で何を学ぼうか考えるようになった。普段の仕事でも、問題意識をもって取り組む事が大切であると感じた」と感想を語っている。

すべての訪問先を終えた後で、湯浅さんは参加者に今回の経験をマレーシアに帰ってから是非、職場の皆と共有して欲しいとアドバイスした。

「その時に意識してほしいのは、『自分は日本に行ってきたから、自分だけが知っている』というような目線ではなく、『一緒に考える』『一緒に問題を解決する』という姿勢を忘れないでほしいと思います」

文化・習慣の違う国で、そのままを移植するのは難しい。だからこそマレーシア人の同僚の知恵を集め、日本で学んだ事をマレーシア流にアレンジをしながらシナジー効果を創出してほしい、と伝えたという。

■会社側の反応■

連載の最後に、参加者を派遣した日系企業の担当者の感想を紹介する。有り難いことに参加者の姿勢がツアー後にこれまでと変わってきたとの感想が多く寄せられた。

「帰国後、更に『報・連・相』を意識し、迅速かつ正確な情報の伝達、自分の意見を踏まえた相談を心がけている様子がうかがえます」(非イスラム女性のVさんの上司)

「日本文化に触れたことにより、日本へ更なる興味を抱いております。特に日本企業は朝礼で1日の業務内容を各担当者に落とし込んでおり、目的意識が明確になっていることがマレーシア企業と大きく異なっていると感じたとのことです」(非イスラム女性のLさんの上司)

「各社を回りなぜ日本人が会社に対しそのような考え方をするのかがより明確になったと言ってました。会社の行動指針等の再確認は必要と感じてくれました。今、行動指針の英語への翻訳を進めています」(非イスラム女性のSさんの上司)

「日本への研修取組みは、少しでも日本文化・慣習・会社への貢献度・気構えなどを知ることの重要なキーファクターだと思います。また、他マレーシア企業スタッフとの人事交流も深まり、より一層の人材育成プログラムだと感じています。今後も、是非日本研修には参加させて頂き、幅広い視野でモノの考え方が出来る人材を育てていく考えです」(非イスラム女性のLさんの上司)

研修ツアーの実施方法についても、合同実施の方がいいのではとの意見も上がった。

「このような研修を会社全体では無理がありますので、優秀社員の褒章として年一回数名を参加させればと思います。異なった業界からの参加もお互い刺激になると思います。企画をしていただいて、企業連合で参加する形が良いと思います」(非イスラム女性のVさんの上司)

最後に、北海道で研修旅行を開催する意義について、北海道だからこそ得られた学 びという点で評価する声も多かった。「南国に育った参加者にとっては、北の大地、北 海道という気候的には対極的な土地であるからこそ得られた貴重な体験」「北国の厳し い自然と向き合い、そしてたくましく生きる人々から学ぶ事は多かったと思う」との 声が寄せられた。 

関連カテゴリ: 経済, 文化・芸能, 日本関係, 観光・イベント

このサイトに掲載されている記事はアジアインフォネットが提供しております。